あんたの話は伝わらない(採用担当者編)

採用担当者編というか、それ以外の編は予定していないが

今年に入って徐々に新卒採用の説明会が増えてきた。スタイルはまちまちだが、基本的には採用担当者が時折映像を見せながら演台に立って企業紹介をするというところだろうか。

映像はなぜか眠くなるが、今回問題にしたいのは映像ではなく採用担当者の語りだ。大きく分けて3パターンある。一つ目が「棒読み」二つ目が「プレゼン」三つ目が「自分の言葉」。

「棒読み」をするのは若手社員が多い。原稿を読み上げているだけという雰囲気がする。さすがにこんな会社は少ないが夏のセミナーにはよく見かけたし、採用説明会でも稀にみられる。

一番多いのが「プレゼン」だ。社員教育の成果が発揮されているといえる。会社のメッセージをそつなく伝えている。原稿を暗記してきているのだろうが、原稿をしゃべっているという感じをさせないのが上手いプレゼン。

あまり大きくない会社のベテラン人事がよくやるのが「自分の語り」。企業のメッセージというよりは、自分の職業観や業務知識を元に語るスタイルだ。実際のところ企業人でありどこまでが本音かはわからない。けれど、言わされているのではなく自分で語っている感じがするのが好印象だ。多くの場合社長プレゼンもこの領域に入る。

採用担当者に忘れて欲しくないのは、学生は三番目しか選択肢がないということだ。学生は、面接で語ることを自分の言葉にしようと努力している。個人として企業に語ろうとしている。にもかかわらず、企業の採用担当者は原稿を読み上げることさえ許されている。就活生は問題があるかもしれないが真正面から企業に向かい合おうとしている。採用担当者は自分の地位に甘えていないだろうか。企業側の「コミュニケーション能力」こそ問われるべきではないか。あんたのはなしは伝わんないよ。

鉄道好きなら、鉄道会社だけには入んな(但し、工学系を除く)

私は、鉄道が好きだ。特に子どものころは。青春18きっぷでどっか遠くに行く、古ぼけた車窓から自然や人の営みを眺めるだけでよかった。いまは、普通列車の硬いシートでの長時間の移動は耐えられなくなってきた。夢がなくなってきた。夢、そう小学校の時の卒業文集に書いた夢は駅長だった。

あれから、10年ぐらい経っただろうか。今、鉄道会社に勤めたいかと言われれば答えは否、だろう。自分に合ってない、価値観が違う。そんな理由だ。

昔、『鉄道員(ぽっぽや)』という映画があった。キハ(ディーゼル気動車)の寡黙な運転手を高倉健が勤めていた。おんぼろのキハが走るローカル線があり、鉄道一筋の人間、そんな人間がいきる場があった。

新幹線が青森まで開通したらしい。東京の中央線のモニターのCMには、こんど新青森駅に赴任する駅員達を俳優達が演じている。主役は三浦春馬。私は、名前しか知らないが、さわやかさだけはわかった。笑顔が素敵だ。

寡黙の鉄道マンから笑顔の接客マンへ、もはや赤字ローカル線などない等しい、ニュースは新幹線、新幹線、新幹線だ。かつて鉄道命で働いていた鉄道マン達は、今、お客様命で働いている。

鉄道マンはお客様を動かしているのであって鉄道を動かしているのではない。鉄道はお客様の脇役であって主役であってはならない。無味乾燥としたステンレスの車体はそのことを物語っている。ただの動く箱だ。

鉄道が好きな人間にとってそれは単に動く箱ではない。歴史と物語をつめこんだ思い出の箱だ。けれど、多くの人間にとってその中身は空気に等しい日常だ。硬い固定式クロスシートの想い出は、多くの乗客にとってどうでもいい当たり前の日常か、むしろ改善されて欲しい問題だ。

人の安全な移動に奉仕するという点では変わらないだろう。しかし、いかに鉄道がでしゃばらないか不快感を与えないか、そんなことも現在の鉄道会社の使命だ。飲み屋のにいちゃんごとく、いかにお客様の裏方として奉仕するか、それが鉄道マンの仕事。

だから、文系大卒鉄道マニアは鉄道会社に入るな。入っても幻滅するだけだ。君たちは、鉄道を触れるとも限らない。旅行やバスならいい、賃貸業やコインパーキングの営業をしてまわるかもしれない。君たちは鉄道会社にそれをイメージしているか。もはや、鉄道の稼ぎなどないということを多角経営の産物であるということを、知識ではなく体感として持っているのか。

もし、手先が器用なら現業職もよかろう。ただ、笑顔だぞ、笑顔。技術系ならがんばれ!!君達にはまだ未来があるかもしれない。

どちらにせよ、鉄道会社が求めているのは、鉄道オタクではなく飲み屋のにいちゃんだということを忘れるな。

「2ちゃんねる」って面白いな

これまで、巨大電子掲示板「2ちゃんねる」には関心がなかった。今もそれは変わらない。まあ、30代ユーザーが多いから彼らのことを知るには役立つかもしれない。

【話題】 20代の「ゆとり社員」 お茶の淹れ方すら知らなかった! 職場の固定電話に出られず! 親と一緒に内定式出席!」という記事が2ちゃんえるにあげられていた。元ネタはポストセブンの「ゆとり社員 親と一緒に内定式出席し、会社固定電話出られず」だ。

よくある、「驚きの新入社員」記事なのだが、意外に賛否分かれていて興味深かった。

ざっとみるだけでもこんな意見が

>31 :名無しさん@十一周年:2010/10/27(水) 17:40:20 id:WlUJtnO3P
>電話もお茶なんて、ゆとり世代じゃなくても
>知らない人は知らないんじゃね?
>
>何も教えないで、いきなりやれと言って
>失敗したらゆとりとバカにするのはどうかと思う。

>35 :名無しさん@十一周年:2010/10/27(水) 17:40:58 id:Ky3YAVheO
>親が甘やかしすぎなだけじゃね

>44 :名無しさん@十一周年:2010/10/27(水) 17:42:28 id:pPizWWWb0
>しかたないだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!
>これが20代ゆとり世代
>そういう教育をほかの世代もされたらそうなるにきまってる
>若いのほしければ外国人を雇うべきだな
>ある中小メーカーの社員がこういった。

>59 :名無しさん@十一周年:2010/10/27(水) 17:43:40 id:WV6P5EWt0
>>>31
>それを会社で教えなきゃならんのが問題になってるんだろw
>問題の抽出もできんのか。

>85 :名無しさん@十一周年:2010/10/27(水) 17:47:06 id:cdU7CW6xO
>>>59
>昔から接遇の社内研修とかあるけどなぁ。
>そういう制度がない、というか、不景気でそういうとこを切ったことが
>今、問題になってるんでないか?

他にも茶道やってないからお茶の入れ方わかりませんという意見も。そっちのお茶じゃない!!

秀逸だなと思ったのはこの意見

>171 :名無しさん@十一周年:2010/10/27(水) 17:59:14 ID:8GiU+FgAO
>なんで人事に責任を問わないの?買い手市場なんだよね?
>こうやって責任転換するからダメなんじゃないの

本当にそうだよね。他にもあったけれど企業の教育力が落ちているという問題もある。ある企業の社員はこういっていた。

「新入社員が失敗するのは当たり前。彼らが悪いのではなく、こちらの教え方が悪かったからその新入社員は失敗したということ」

日本の企業は独自の教育力を前提にまっさらな人間を採ってきたわけで、いったい新人社員に何を期待しているんだ、と言いたくなる。

それを新人社員に転嫁するなよ。
「社員旅行は出勤扱いですから参加すると代休がとれますか?」と聞いた新入社員だって昔はいた。

人事は自分の言葉で語っているのか

採用担当だって見られてる。説明会で話すことはだいたい同じだ。会社の理念、仕事内容、社員の声、採用方法、待遇、様々な企業を回るといったいどこの企業の採用担当が話した内容かわからなくなる。

特に、大手企業は合同説明会やインターンシップと名乗ったセミナーで若手社員に話させる。多分そんなところに出てくる若手だからかなり優秀だ。教科書通りの丁寧なプレゼンをしてくる。聞き取りやすいがつまらない。

近年、就活本には、マニュアル通りのありきたりなことをいうなと書かれている。けれど学生が就活で見る身近な先輩社員である採用担当者がマニュアル通りに喋っていると萎えてしまう。

よくよく考えてみれば、だいたいどの会社でも「コミュニケーション能力」やら「チャレンジ精神」やら同じことを言っている。学生並みのボキャブラリーの貧困さ、コミュニケーション能力のなさ、「自分の言葉」で語れないということは何に由来するのか。社会人の経験の少なさか、企業の自信のなさか。サラリーマンには就活本をおすすめする。

中小企業や地方の企業には面白い話をする人もいる。そういう説明会は楽しい。けれどその企業がいいのかその人がいいのかは見極める必要がある。

あと要注意は関西弁。マニュアル通りでも自分で語って見えるから危険だ。

工学系

ある技術系出身の50代会社員が母校の工学系大学出身の新入社員に聞いた。

「就職活動大変だった?」

彼らの答えは、否、だった。

文系の就職と理系の就職、特に工学系は大きく違う。就職だけでなくスクールライフや研究さえも違う。当たり前のことだけれど、実は重要なことだ。

かつて「産学連携」といえば悪の権化であった。大学が企業の道具になることを危惧した学生・研究者はたくさんいた。一部の政治志向を持つ文系学生が聞いたら驚く話だが工学系の学生にとって「産学連携」は日常だ。

工学とは、簡単に言ってしまえば役に立つものをつくる学問だ。企業が商品を作り消費者が買う社会ではものをつくるのは企業だ。否応なしに工学系学部・研究科は企業社会に組み込まれる。学生も研究者も。

だから、工学系の学生は企業的なものの見方をするし、企業の中を見る機会も多い。良くも悪くも大学というモラトリアムの中で企業と距離を置いた生活をしている文系学生とは大違いだ。

工業系の場合、就職に強い大学の院に進学すれば就職に困ることはあまりない。文系学生の苦労はわからないだろう。

厳密に言うと工学とは違うのだが、ノーベル賞は誰かが取ると他の同じような研究をしていた人はもらうチャンスをなくす。競争社会だといっていい。ある工学系院生は言った。

「研究室の同期は仲間かもしれないけれどライバル」

工業系の学生と接していると経済学系の学生と同じくらい冷たさも感じるけれど悪い奴らではないよね、たぶん

お山の大将の子分

 ある旧帝国大学でおこなわれた就職活動支援セミナーで大学事務職員が放った言葉は意外だった。

「○○大学の学生は先入観にとらわれず広い視野を持つべきだ。地元・大手・安定という先入観にとらわれていては『お山の対象』か悪ければ『お山の大将の子分』にしかならない」と

 この大学は地域のトップ校であり地域のエリートを養成してきた経緯がある。それだけに特殊なのだが、保守的な現在の学生共通の問題のようにも感じる。

 学生の保守化など今に始まった問題ではない。確かにビール離れ・スキー離れなど言われるのだけれど、そういった消費文化にどっぷり浸かった先輩世代はその枠組みに疑問を持たない時点でかなり保守的な世代だ。しかしながら好景気ならばこういった保守的な発想は問題にならない。

 ここ十年余り不景気が叫ばれる。学生達はひたすらリスクを回避して地元・大手・安定を目指す。ひたすらに既得権にしがみつき生き残りを図る。その結果はいくつもの無残な話ばかりだ。

 2年前買い手市場だと言われたころ、大手企業の求人倍率は1を切っていた。中小企業は誰も行きたがらず求人倍率だけはうまくいっているように見えた。景気が少しよい時でさえそんな状態だったのだから悪くなればダメージは大きい。不景気になればなるほど大手で安定した生活を望む。大手企業の採る人数は減りうける就活生の人数は増える。結局、そんな就職活動はうまくいかず不本意な就職をする。それだけならまだよい。

 学生は学歴という既得権がある。彼らが激しい受験競争で獲得したものであり、上位校とされる学生ほどメリットがある。彼らは、企業が学歴で判断しているかは別だが、学歴という既得権に依存して活路を見出す。というか学歴に勇気付けられる。逆に学歴の効果がない学生は意欲を奪われる。

 今後しっかりそのことも書きたいが、アンチマニュアル就職活動本でもひたすら企業社会への同化が叫ばれる。単純化して言えば、同化すれば既得権が倍増する、と。

 既得権にしがみつく努力ばかりする社会に何の未来があるというのだ。井の中の蛙は一生井戸の中にいれば幸せだ。だけどいつ井戸が壊れるかわからないのにそれにつかまろうとする姿は涙ぐましいがかなしい。

お役所の勘違い、IT編

名古屋で見た広告。ヤング・ジョブ・あいちという愛知県の機関が書いたものだ


「IT、特にソフトウェア開発は、頭脳とサーバとオフィスがあればよく、投入する物的資源が少なくて済む。あとは頭の勝負。そういう産業構造だから若い人の活動の場が非常にある。」http://www.pref.aichi.jp/yja/pdf/event/img0922.pdf


いくら若者にやる気を出させるためとはいえ嘘はよくない。

 IT系企業は純粋な「頭の勝負」ではない。もちろん研究系の仕事、名前を出すならばGoogle, Inc.で新技術の開発にあたるならば純粋な「頭の勝負」だろう。そういった会社は、入社時にある程度の技術力を求める。

 けれども、多くのIT系企業は技術力に関係ない採用を行っている。なぜなら彼らが求めているのは、お客様と対話する技術系コンサルタントだからだ。お客様と交渉しながら解決を目指す仕事、そこでは異文化交渉能力とでも言うべき能力が求められるはずだ。お客様はITに詳しくない場合が多いし、また企業風土や業務内容も異なる。そこで、お互いの溝を埋め共通の解決に向かわせるのがIT業界の多くの企業の仕事だ。純粋な「頭の勝負」ではない。企業が大好きな「コミュニケーション能力」が求められる場なのだ。

 実際に、この広告で取り上げられている企業の理念の一つは「携わる全ての人に対して「誠意」を持って対応する」ことであり、「技術本位に偏らず」「顧客指向を追及」することも売りだ。この広告の中で矛盾があることをこの広告を製作したヤング・ジョブ・あいちは気づいただろうか。

 実際に、社員もこう語っている。


「人と触れ合うことがあまりなく、PCと向き合い黙々と業務をこなすというイメージがガラリと変わり、実際常駐にでてからは他社の方々と話をしながら情報を共有するなど実務も助け合いながら作業しているので楽しく仕事ができています。」http://www.sysystem.co.jp/jp/recruit_staff.html


PCと向き合い黙々と業務するわけではないというのが、多くの企業や社員の主張なのでたぶん正しいと言うほかないのが学生である私の限界だ。しかし、SE向けのコミュニケーション能力向上本が複数出ているのを見るに間違いではなさそうだ。

P.S
施設投資が少ないから若い人でもITで起業できますよ、と言うのならたぶん間違いないだろう。だが、この広告は起業ではなく企業への就職を目指す人向けに書かれている。